水族館の片隅で、マグロと目が合った
水族館というのは、入場料を払ってからもう一度お金を使いたくなる場所だ。
お土産コーナーをぶらぶらしていて、ふと目に入った一角。紙の束がケースに収まっていて、傍に並ぶぬいぐるみが「必ずどれかが当たります」と書かれた札の下にいる。マグロがいる。それも妙にもちっとした、愛嬌のある顔で、こちらを見ている気がする。
ガチャガチャ人間には、このシステムが妙に刺さる。コインを入れてカプセルが出てくる代わりに、紙のくじを引いて景品のぬいぐるみが決まる。ハズレなし。必ず何かが手に入る。しかもその何かが、マグロだったりイルカだったり、普段まず持ち歩かないようなものだったりする。
それが「ハッピーマリン」を中心とした、水族館くじの世界だ。
ハッピーマリンとは何か
「ハッピーマリン」は、海や陸の生き物たちをモチーフにしたぬいぐるみを製造している株式会社CUTEが展開するシリーズで、マグロ、カツオ、キンメダイ、イルカ、クジラ、ペンギン、カメ、シュモクザメ、チンアナゴ、クラゲ、アザラシなど多様な海洋生物をラインナップしている。
株式会社CUTEは日本のぬいぐるみメーカーで、水族館や動物園向けのくじ引き景品を多く手がけている。ハッピーマリン(海の生き物)のほかに、ハッピーファーム(農場動物)、ハッピーズー(動物園の生き物)など複数のシリーズを展開しており、むろと廃校水族館のブリくじや人気のシラスくじのメーカーでもある。
直営店舗も持っており、株式会社CUTEの直営店舗が伊豆の下田海中水族館内に、ぬいぐるみくじ専門店が箱根ユネッサン内にある。
要するに、水族館に行くと高確率でどこかに置いてある、あの「もちもちしたお魚のぬいぐるみ」の多くが、このメーカーの商品だ。気づかないうちに、すでに目にしたことがある人の方が多いはずだ。
くじの仕組み——ハズレなし、サイズが違うだけ
このくじの最大の特徴は「ハズレがない」という点にある。
概ね1回1000円で、特等・2等・3等・4等というサイズ構成で、どの等賞を引いても同じ生き物のぬいぐるみが手に入る。大きさだけが違う。
一番小さい末等でも、それなりのサイズのぬいぐるみが手に入る。大当たりの特等ともなれば、両手で抱えるような大きさになる。新江ノ島水族館のアザラシくじを例にとると、1等が約84cm、2等が約63cm、3等が約47cm、4等が約30cmという構成だ。
「ハズレを引いたら何も手に入らない」というガチャやくじのリスクがない。引くたびに何かが確実に手に入るという安心感が、子供から大人まで幅広い層に受け入れられている理由のひとつだろう。もちろん特等の大きなぬいぐるみを引いた時の興奮は格別だが、小さな末等を手にしてもそれはそれで愛着が湧いてくる。
価格帯は施設によって若干の差があり、新江ノ島水族館では1回1,100円で設定されている。おおよそ1000〜1200円が一般的な目安と見ていい。
ラインナップ一覧——何十種もある生き物たちを解説
ハッピーマリンシリーズの守備範囲は広い。主なラインナップをざっと見てみよう。
ハッピーマリンシリーズの主なラインナップには、マグロ、カツオ、キンメダイ、イルカ、クジラ、ペンギン、カメ、シュモクザメ、チンアナゴ、クラゲ、アザラシ、ブリくじ、サバくじ(むろと廃校水族館限定)などがある。
どの施設でもすべての種類が引けるわけではなく、各館が自分たちの展示生物や地域性に合わせてラインナップを選んでいる。高知なら「カツオくじ」、えのすみなら「クラゲくじ」「シラスくじ」といった具合に、その場所でしか引けない種類もある。それがまた「遠征して引きに行く」という行動を生む。
マグロくじは背側とひれが紺色、腹側が白色、真ん中が灰色の3色構成で、プラスチック製の黒目が付いており、もっちりしていて柔らかく愛嬌のある表情が特徴だ。全国の水族館や魚介センターなど様々な所で見かけるため欲しい方はお近くの施設を当たってみてはいかがだろうか、と紹介されている。
チンアナゴのぬいぐるみは独特で、縦に置いても自立しない形状をしており、細長い体のどこを握っても感触がある独特の構造になっている。これはチンアナゴという生き物の特性をぬいぐるみとして正直に表現した結果で、ある意味では潔い設計とも言える。
「もちもち」素材の正体と、その愛らしさ
ハッピーマリンのぬいぐるみを語る上で避けて通れないのが、この「もちもち感」だ。
「もちもち感触のぬいぐるみ」とはいわゆるマシュマロ生地と呼ばれる、毛足の短く伸縮性のある生地と、やわらかい詰め物からできているものだ。
握るとぐにゅっとつぶれて、離すとゆっくり形を戻す。その感触がマシュマロやお餅に似ているため「もちもち」と呼ばれる。一度触れると手が離せなくなる人が多い。
この素材の特徴は触り心地だけじゃなくて、ぬいぐるみの「顔」にも影響する。もちもち生地はほどよく丸みを持ち、どこか「ぷにっとした」シルエットになる。リアルな造形を目指した精密フィギュアとは正反対の方向性で、生き物の特徴をデフォルメしながら「かわいさ」の方向へ最大化する設計だ。
海の生き物のフィギュアはリアル系からゆるキャラ系まで色々触れてきたが、このもちもちした質感は独自のポジションを占めていると感じる。精緻な造形の感動とは違う、「ただただ触っていたい」という感覚が呼び起こされる。
人気ランキング——イルカ、カワウソ、クラゲが三大注目か
どの生き物のくじが最も引かれているか。全国の施設で取り扱われる頻度から、おおよその人気傾向が見えてくる。
全国の様々な園館で本当によく見かけるカワウソのぬいぐるみくじ。イルカと並んで取り扱いが最も多いのではないだろうか。水族館や動物園のような場所から空港のような所まで、様々な施設が取り扱っているとのことで、それだけカワウソが人気で注目を集めていることの証だ。
クラゲくじは新江ノ島水族館での盛り上がりが有名で、大人気のにっこり顔が描かれたクラゲのぬいぐるみとして、色や形違いを多数展開し年間を通じて断続的に登場している。2024年には20周年記念の特別カラーも登場するなど、施設とメーカーが一体になって盛り上げているケースもある。
マグロは水産施設や魚市場など、水族館以外の場所でも引けるケースがある。マグロを抱えて市場を後にする人の姿は、それだけでちょっとした絵になる。
イルカは安定した定番で、どこへ行っても大体ある。サイズによる値段差が大きく出やすいため、「大きいイルカを引きたい」というモチベーションで何度もチャレンジする人が多い印象だ。
どこで引ける?施設・地域ごとの探し方
ハッピーマリンのぬいぐるみくじは、全国の水族館・動物園・道の駅・魚介市場・テーマパークなど非常に幅広い場所に設置されている。「旅行の記念に引きたい」という人にとっては、訪問先で引ける種類が変わるという楽しさがある。
水族館や動物園などで約1000円で引くことのできるぬいぐるみくじの取り扱い場所が地域別にまとめられており、北海道から沖縄まで全国各地の施設情報が確認できる。ただし時期によって入れ替わりがある施設も多いため、事前に施設の公式SNSや公式サイトを確認してから向かうのが賢明だ。
特定の種類を確実に求めて足を運ぶなら、あらかじめ「その施設では何のくじが引けるか」を調べておくことをおすすめする。施設によって扱うラインナップが全く異なる場合があり、遠征してみたら「その生き物のくじは今はない」という事態が起きることもゼロではない。
施設公式のXアカウントやInstagramでは、くじの入れ替わり情報をこまめに告知しているところも多いので、フォローしておくと最新情報が追いやすい。
フリマ相場と通販購入——くじを引けない場合の代替手段
施設に行けない、遠くて足を運べないという場合、フリマアプリや通販で入手する選択肢もある。
メルカリや楽天フリマでは「ハッピーマリン ぬいぐるみ」と検索すると各種が出品されている。相場はサイズと種類によって幅があり、小さめ(末等・4等サイズ相当)なら500〜1,000円前後、中サイズで1,000〜2,000円前後、大きめのサイズは2,000〜4,000円前後が一般的な目安だ。希少な施設限定種(高知限定のカツオなど)は若干高めになる傾向がある。
通販専門店の「まんぼう屋ドットコム」では、株式会社CUTEのぬいぐるみが定価販売されており、くじ引きを経ずに確実にほしいサイズ・種類を入手できる。旅行や施設訪問がすぐに難しい人には、こちらのルートを使うのが現実的だ。
ただ、フリマや通販で手に入れたぬいぐるみよりも、実際にくじを引いて当たったぬいぐるみの方が「愛着が湧く」という感覚は確かにあると思う。同じものでも、どこで・どう手に入れたかという文脈が、そのものへの気持ちを変える。水族館でドキドキしながら引いたマグロと、家のドアに届いたマグロは、見た目は同じでも少し違う顔をしている気がする。
1000円が、手のひらサイズの海を連れてくる
ガチャガチャが「カプセルを開ける瞬間」の興奮だとすれば、ぬいぐるみくじは「紙を引く瞬間」の期待と、その後に手に残るぬいぐるみの重みがセットになっている。
ハッピーマリンシリーズは、その両方を水族館という場所ならではの体験と組み合わせてくれる。マグロや深海魚が手のひらに収まる不思議さ。もちもちした感触がずっと手に残ること。旅先の記念として、あるいは日常のちょっとした衝動として、1000円が届けてくれるものとしては十分すぎる価値がある。
水族館やアクアリウム施設を訪れた際は、魚を眺めるだけで帰ってしまわず、少し足を止めてくじのコーナーを見てみてほしい。もちもちしたイルカかマグロか、あるいはチンアナゴか——その日の自分にどの生き物が来るかは、引くまでわからない。それがくじ引きの、変わらぬ面白さだ。

