ガチャを回したらVHSが出てきた
ガシャポンのカプセルを開けた瞬間、手のひらにおさまった小さなVHSビデオテープが現れた。表面に書かれているタイトルを見た瞬間、反射的に「あ、これ持ってた」という記憶が戻ってきた。
クレヨンしんちゃん ビデオテープミニチュアチャームコレクションは、2025年7月第2週にバンダイガシャポンから発売された。価格は1回300円、全13種という構成で、全国のカプセルトイ売り場で順次発売された。
クレヨンしんちゃんの過去映画作品を懐かしのVHSビデオテープとしてミニチュア化した商品で、蓋を開けると中のビデオテープが覗ける仕様になっている。ビデオテープ本体は取り出せないが、全種ボールチェーン付きで持ち歩ける設計だ。
蓋を開けるとビデオテープが見える、というギミックがいい。本物のVHSを借りてきて、ケースの窓からテープを確認したあの感触が、手のひらサイズで再現されている。
全13種のラインナップ、どの映画が入っているか
ラインナップは1993年のアクション仮面VSハイグレ魔王から始まり、1994年ブリブリ王国の秘宝、1995年雲黒斎の野望、1996年ヘンダーランドの大冒険、1997年暗黒タマタマ大追跡と続く。
フリマアプリでの出品情報から確認できるラインナップには、電撃!ブタのヒヅメ大作戦、爆発!温泉わくわく大決戦、嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲、嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦、嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ、伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃も収録されている。
全13種という構成は、劇場版クレヨンしんちゃんの1993年から2005年前後までを概ねカバーしている。まさにVHSというメディアが現役だった時代の映画群だ。
なぜこの年代が選ばれたのか
VHSビデオというメディアの現役期間と、劇場版クレヨンしんちゃんの黄金期が重なっている。1993年の第1作から2005年前後まで、映画をVHSで借りて家族で観るという文化があった。オトナ帝国の逆襲も戦国大合戦も、最初に観たのはレンタルビデオ店で借りてきたVHSだったという人は少なくないはずだ。
劇場版クレヨンしんちゃんは1993年から2026年で全34作という長大なシリーズで、累計興行収入はシリーズ通算500億円超に達している。これだけのシリーズから「VHSで出た時代」に絞って13種を選んだことが、このガチャガチャの核心だ。
オトナ帝国の逆襲という選択の重さ
このシリーズの中で「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」が収録されていることは特別な意味を持つ。この映画は2001年公開で、昭和の記憶と懐かしさをテーマにした作品だ。
昭和の匂いに引き寄せられた大人たちが、過去の世界に閉じこもろうとする。それを阻止するためにしんのすけが奮闘する物語の核心にあるのは、「懐かしさ」への向き合い方だ。
VHSビデオのミニチュアをガチャガチャで手に入れて、オトナ帝国の逆襲の小さなケースを手に持つ。その行為自体が、あの映画のテーマと妙な形で交差している。懐かしさを手元に置くことへの欲望は人間の自然な感情で、それに応えた商品設計だと思う。
ミニチュアパッケージコレクションシリーズとの関係
ビデオテープミニチュアチャームコレクションは、バンダイが展開するクレヨンしんちゃん ミニチュアパッケージコレクションの系譜に位置する商品だ。
ミニチュアパッケージコレクションはしんちゃんが大好きなお菓子やおもちゃがパッケージのままミニチュアになった商品で、ボールチェーン付きで好きな場所に付けられる設計になっている。2024年12月に発売した商品が再販されるほどの人気シリーズだ。
チョコビやアクション仮面グッズのパッケージをミニチュア化するシリーズがあり、その流れの中にVHSビデオという選択が来た。「劇中に登場するもの」ではなく「視聴者が実際に手にしていたもの」をミニチュア化するという視点の転換が、この商品の面白さだ。
VHSというメディアをガチャガチャにする意味
VHSビデオテープは2010年代にほぼ市場から姿を消した。レンタルビデオ店もほとんどが閉店し、今の子どもたちにとってVHSは博物館の展示物のような存在になっている。
それをミニチュアにしてガチャガチャで売る。これは50代の自分たちが「使っていたもの」が「コレクターズアイテム」になるというサイクルの典型的な例だ。カードダスのミニミニカードダスと同じ文脈で、体験の記憶を持っている世代が「懐かしい」と感じてお金を出す動線が設計されている。
ただこのシリーズが面白いのは、VHS自体の懐かしさと、その中に入っていたコンテンツへの愛着が二層になっている点だ。単純に「VHSが懐かしい」という感情だけでなく、「あの映画をVHSで観た」という体験まで包んでいる。
入手方法と中古相場
フルコンプリートセット(全13種)はトイサンタで4,900円(税込)で販売されており、ネコポス対応のため送料を抑えて入手できる。
バンダイガシャポン公式サイトの「ガシャポンどこ?」で通信機能付き筐体の設置店舗を検索できる。2025年7月発売の商品のため、現時点では在庫が残っている店舗とそうでない店舗が混在している状態だ。
フリマアプリでは単品出品が続いており、オトナ帝国の逆襲や戦国大合戦など人気の高い作品は他の種よりやや高値がつく傾向がある。全13種コンプリートを狙う場合、筐体を13回以上回すよりフルコンプセットをまとめて購入する方がコスト面では合理的だ。
劇場版クレヨンしんちゃんのVHSをリアルで持っていた人へ
1990年代後半から2000年代前半にかけて、GW明けに「今年のクレしん映画どうだった?」という会話があった世代なら、このガチャガチャのラインナップを見て反応する種類が自分にある。
どの映画を最初に観たか、どれをレンタルで借りたか、誰と一緒に観たか。VHSのケースを手に持ったとき浮かぶのは、映画の内容よりも「観た状況」かもしれない。ガチャガチャがその記憶にアクセスするルートになっているとしたら、300円という価格の意味が変わってくる。
全13種の中から「これだけは手元に置きたい」という1種を選ぶなら、それはその人にとって特別な映画を選ぶことだ。コンプリートよりも、そういう1種との再会の方が、このシリーズの本質的な楽しみ方だと思う。

